はじめに
ビジネス組織では分業制の導入により、業務の役割や責任が明確化され、効率性が向上します。しかし、分業制は組織の「サイロ化」を引き起こし、全体像の把握を困難にするだけでなく、イノベーションの阻害要因にもなり得ます。さらに、日本企業特有の文化的要因、例えば年功序列制度やOJT中心の教育、個人任せの成長風土も、イノベーション活動に大きな影響を与えています。本記事では、これらの要因を分析し、イノベーション活動を活性化させる方法を提案します。
分業制がもたらすメリットとデメリット
分業制は定型業務などの効率化には効果を発揮しますが、組織を横断した創造的な業務には逆効果となります。ここでは分業制のメリットとデメリットを解説します。
| メリット | デメリット |
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分業制には、雇用のハードルが下がり、必要な人材を確保しやすくなるという利点があります。しかしその一方で、創造的な活動が難しくなり、変化を避ける保守的な組織文化が形成されやすいという欠点もあります。その結果、イノベーション活動だけでなく、ビジネス環境の変化に素早く対応する「俊敏性(アジリティ)」も低下してしまいます。
海外では、従来のジョブ型採用からスキルベース型採用へとシフトする動きが見られます。ジョブ型採用は業務範囲が明確に定義されているため、組織の柔軟性や継続的な成長が阻害されるリスクが懸念されているのです。
イノベーションを阻害する要因については、多くのインターネット記事でも指摘されていますが、その多くが分業制のデメリットと重なります。組織として分業制の利点を活かしつつ、柔軟性や創造性を維持する工夫が求められます。
ここまでイノベーションにおける分業制が与える影響を解説しましたが、それ以外にも日本特有の企業文化も少なからず影響を及ぼしています。
以下に、日本の企業文化が与える影響を解説します。
日本企業文化の影響
日本の企業文化には、以下のような特徴があります。
1,年功序列制度
- 海外のビジネス組織とは違い、年齢や勤続年数に応じて昇進が決定されることが多い。
- 結果よりも在籍年数が評価される傾向があり、チャレンジ精神や創造性が軽視されることがある。
- 若手が自由に発言しにくい環境が、革新的なアイデアの創出を阻害する要因となる。
2,役職や役割に成長を期待する文化
- 組織で役職に就いた人は、その役割に応えようと努力することが多いです。しかし、本人の適性やスキルを無視して昇進させると、責任感の欠如や形骸化したリーダーシップが生まれ、組織全体がうまく機能しなくなることがあります。
3,OJT中心の教育
- 組織内では『見て学ぶ』『経験を積め』といった文化が根付いている。
- 組織の経験や知識を蓄積し、管理するためのナレッジ管理できておらず、個人の暗黙知に依存しているケースが多い。
- 体系的な教育やスキルアップの機会が不足し、個人の成長が偶発的な要素に依存する。
4,個人任せの成長文化
- 「自分で考え、行動し、成長すること」が暗黙の期待とされている。
- 組織としてのサポートが弱く、成長しない個人が取り残されるリスクが高い。
5,明確でない権限移譲
- 日本の組織では、権限委譲がうまく機能しないことがあります。これまで多くの部下は上司の意図を察して動くことが求められてきたため、権限や責任が曖昧でも組織はなんとか機能してきました。経営側はある程度の権限や裁量をもたせているので明確にしていないと考えていることが多い。しかし、こうした権限や責任の曖昧さが続くと、従業員は自分で判断したり提案したりすることを避けるようになり、やる気が低下し、最終的には離職者が増える原因になることがあります。
イノベーション活動に与える影響
これらの分業制や日本特有の企業文化がイノベーション活動に与える影響を、以下に整理しました。
ポジティブな影響については、経営マネジメントに関わる役職者は、強く同意する部分が多いと思います。しかしイノベーション活動を行うという視点から考えた場合、ネガティブな影響は、大きな阻害要因となっていることも強く同意してもらえる内容と思います。
| 要素 | ポジティブな影響 | ネガティブな影響 |
| 分業制 | 業務の効率化、専門性の深化 | サイロ化、柔軟性の欠如 |
| 年功序列 | 組織の安定性、長期的視点の維持 | 若手のモチベーション低下、リスク回避志向 |
| 能力に関係ない役職付与 | 責任感の醸成、成長機会の提供 | 不適材不適所の発生、組織の硬直化 |
| OJT中心の教育 | 現場感覚の習得 | 体系的教育の不足、成長のばらつき |
| 個人任せの成長 | 自発性や主体性の向上 | サポート不足、スキルギャップの拡大 |
| 不明確な権限移譲 | 柔軟な意思決定の余地、現場の自主性向上 | 責任の所在が不明確であることによる意思決定の遅延 |
日本の企業文化に最適なイノベーションの仕組み
従来の分業制や日本特有の企業文化を全面的に否定し、すべてを刷新することは大きなリスクを伴います。また、その再構築には膨大な時間やコストがかかるでしょう。
そのため、現状の組織構造を大きく変えずにイノベーションを生み出す仕組みが求められます。これこそが、ISO56001(イノベーション・マネジメントシステム)を活用し、小さな取り組みから始める「スモールスタート型のイノベーション」の考え方です。
このアプローチなら、既存の強みを活かしながら、着実にイノベーションを推進することが可能です。
仕組み①:イノベーション管理ツール『IDEASCALE』を利用した仕組み
上図は、ISO56001(イノベーション・マネジメントシステム)を実践するためのスモールスタート例となります。
この基本モデルは、楽天グループ株式会社、沖電気工業株式会社などイノベーションに取り組む日本企業が最初に実践しているものです。
各部門から選出したイノベーション・アンバサダーという人員が、内部・外部の情報や課題、問題、アイデアを収集してイノベーション管理ツールに登録します。登録された情報に対して、投票やコメントなどで重要度を判断し、「既存事業に対する影響」「新しい価値としてアイデアの種」などの選別されたタグ付け(仕分け)を行います。要対応と判断された情報に対して優先順位付けを行います。
以降は、イノベーション管理ツールに設定されたプロセスに基づいて対応方針や戦略などのプランを作成し、評価・検証され、最後に意思決定を行います。
仕組み②:プロジェクト管理ツール『ONES Project』無料版を活用した仕組み
こちらの仕組みは、プロジェクト管理ツール『ONES Project』の無料版を利用したISO56001(イノベーション・マネジメントシステム)における「組織の状況」「機会の特定」にて利用できる仕組みです。この仕組みの設定手順書については、以下のページにて無料公開されています。
| ONES製品を活用した『情報判断の仕組み』の設定手順書を公開 | https://systemcon.co.jp/resources/articles/press/press-20240918/ |
この仕組みは以下の特徴をもっています。
- 30名まで無料利用できる
- コストをかけずにISO56001(イノベーション・マネジメントシステム)のスモールスタートが可能
- IT未経験の方でも設定が可能
それ以外の行うべき内容について
ISO56001(イノベーション・マネジメントシステム)では、「組織の状況」や「活動」の領域が重要とされています。組織全体を横断して活動するイノベーション・アンバサダーは、部署ごとの分業体制によるデメリットを解消する役割を担います。しかし、ここで注意すべきなのは、役割を与えただけで機能するわけではないという点です。
つまりトップマネジメントは、イノベーション・アンバサダーが機能するための環境を構築する必要があります。そのための具体例を以下に示します。
1.リーダーのコミットメント
トップマネジメントは、イノベーション活動の大切さを強調し、その取り組みについて全ての関係者にしっかりと伝える必要があります。
その方法の例は以下となります。
- トップマネジメントからの強い意志、意図を関係者に伝える
- 価値共創ガイダンス2.0を参考にして投資家向けレポートにイノベーション・マネジメントシステムへの取り組みついて記載する
- 従業員へイノベーション活動、およびイノベーション・アンバサダーの役割に明確な説明と告知を行う
- イノベーション活動が組織横断した活動であり、関係者は協力を優先させることを浸透させる
- イノベーションに関する社内規定を作成し、規定を従業員に浸透させる
- イノベーションに関する人事評価制度を設定して実行する
2.イノベーション管理ツールの導入
ほとんどのベテラン社員は若手社員の考えやアイデアに対して、意見を述べることが多いと思います。しかし、ベテラン社員からアドバイスや意見を支えても若手社員からは、反論や否定と捉えられてしまう場合があります。これは以下のような背景が要因となっている可能性があります。
- 経験と成功体験による「固定観念」
- 若手の意見への「保護者的態度」
- 組織文化や上下関係
- コミュニケーションの齟齬
これらの問題を解決するには、SNS機能を備えたITツールを活用したコミュニケーションが効果的です。ベテラン社員は、主に対面でのやり取りを通じて仕事を経験してきた一方、若手社員は学生時代からSNSなどのITツールを使ったコミュニケーションに慣れ親しんできました。
そのため、両者のコミュニケーションスタイルや価値観には大きな違いがあります。この違いを無理に変えようとすると、時間や労力が無駄になったり、ストレスが溜まったりして、人間関係がうまく築けず、生産性が下がってしまうことがあります。
3.イノベーションに必要な教育
多くの組織は、5why分析(なぜなぜ分析)によるカイゼン活動によって成果をあげてきました。人材教育においてもKJ法やRoot Cause Analysis(根本原因分析)などのフレームワークに基づいた教育を行ってきたと思います。しかし、これらのフレームワークは可視化された状態であれば効果を発揮しますが、これまでになかったものを生み出すという点においては十分ではありません。思いもよらない発想(アイデア)を生み出す手法があります。
それが、世界最大規模のイノベーション研究機関:Global Innovation Management Institute(GIMI)のInnovation Catalyst認定資格です。この資格取得を行うための研修と資格試験によって、組織にアイデアを生み出すための構造化されたプロセスと活用するためのフレームワークや方法を知識として得ることができます。楽天グループ株式会社、沖電気工業株式会社などのイノベーション・アンバサダーは、この教育と資格取得を行っています。
4.マネジメント能力の向上
部門ごとに限定された目標だけで運営すると、組織全体でのイノベーションが機能しなくなることがあります。
例えば、サッカーの試合でディフェンダーが「相手の攻撃を防ぐこと」だけを目標にしてしまうと、チャンスが訪れても「シュートは自分の役割ではない」「シュートしても評価されない」と考え、積極的な行動を取らなくなってしまう可能性があります。
これはビジネスの現場でも同様です。部門長が「自部門のメンバーに負担をかけたくない」という思いから、他部門からの協力要請を断ることがあります。その結果、部門同士の連携が取れず、組織全体のパフォーマンスが低下してしまいます。
このような状況が起こる原因の多くは、組織全体の目的や目標、ビジョンが明確に共有されていないこと、人的リソース管理が不十分であること、部門長の視点が自分だけを考慮した部分最適になっていることにあります。
経営層や事業責任者は、組織全体のビジョンや目標を明確に策定し、それを全社に向けて発信・共有することが重要です。また、各部門長は「自部門の成果」だけにとらわれず、組織全体の最適化を意識したマネジメントを行う必要があります。
5.リソース管理の導入
どのような取り組みでも、人的リソースの確保と管理は重要な課題です。そのため、社内外の人的リソースをデータベース化し、適切に管理する仕組みが必要です。
| 項目 | ツール名(例) | 概要 |
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社内リソース管理 |
タレントマネジメントシステム(SmartHRなど) イノベーション管理ツール(IdeaScaleなど) |
人材のスキル・知識・資格・経験・人脈・思考特性などを把握し、効果的なチーム編成を行う |
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社外リソース管理 |
名刺管理(SanSanなど) オープンイノベーションプラットフォーム(AUBAなど) イノベーション管理ツール(IdeaScaleなど) |
外部の企業情報を蓄積して、必要に応じてマッチングする |
株式会社システムコンシェルジュでは、ONES製品を利用したメンバーディレクトリ(メンバー情報)、ベンダーディレクトリ(ビジネスパートナー情報)によって内部と外部のリソース管理を行っています。
6.時間の確保
「本業が忙しくてイノベーション活動に取り組む時間がなかった」という声はよく耳にします。しかし、本業と同じレベルでイノベーション活動を重要視しなければ、将来的に大きなリスクを招く可能性があります。そのため、組織としてイノベーション活動の時間を意図的に確保し、継続的にコミットすることが重要です。
例えば、Googleなどの代表的なイノベーション企業では、「20%ルール」を導入し、就業時間の20%をイノベーション活動に充てることを奨励しています。一方で、日本の組織文化に合わせるなら、「毎週月曜日の9:00~10:00はイノベーション活動の時間」とルールを明確に定めることが、より効果的でしょう。
このように、時間を明確に確保することで、日常業務に追われることなく、イノベーション活動に集中しやすい環境を作ることができます。
最後に
現在、世界は第四次産業革命の真っ只中にあります。これまで日本は働き方などを変えるのが難しく、何度も起こった産業革命に遅れを取ってきました。今後は、古い考え方を見直し、新しいアイデアを生み出し、素早く変化に対応し、持続的な成長を実現できる組織に変わる必要があります。
そのために「ISO56001(イノベーション・マネジメントシステム)」が有効な指針となります。このシステムを支える重要なITツールとして、以下のものがおすすめです。
- IDEASCALE:アイデアの管理と共有をサポートするツール
- ONES Project:プロジェクトの進行状況を管理するツール
- ONES Wiki:知識や情報を整理・共有するためのツール
これらのツールを活用することで、組織はより効果的にイノベーションを推進し、継続的な変化への適応力を高めることが可能となります。
ISO56001の基礎的な仕組構築に必要な3つのITツールの資料を無料公開中
株式会社システムコンシェルジュでは、ONES Project、ONES Wiki、IdeaScaleの資料に加え、さまざまな組織の課題を解決する方法論や仕組み化を説明した資料も無料公開しています。
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