私たちは以前、「ビジネスが成長する過程で組織が直面する問題点」について話しました。特に、組織が「創業期」から「成長期」へと進む際によく見られる誤解とそれに対する解決策について今回は詳しく説明します。
多くの創業者は、自分の考えと行動によってビジネスを成長させる原動力となります。これらの人々は、新たなアイデアを生み出し実行できる素晴らしい能力と経験を持っています。しかしながら、どんなに優れた経営者でも、自分一人で全てを理解し、対応することは不可能です。自分の視野や行動量には限界があります。
それによって、組織が成長すると、経営者が把握できる視野も変わってきます。この点について、より詳しく見ていきましょう。
組織の成長によって変化する視野
創業時から一緒に働いている従業員たちは、経営者が市場の動きや顧客の要望、社員の能力、競争相手の動き、取引先の強みなどを理解し、それを元にビジネスを立ち上げ、運営してきた様子を目の当たりにしてきたでしょう。経営者はチームの指導者として、一緒に働く人々とともにビジネスを進めてきたし、その結果として組織も成長してきたと言えます。
組織が大きくなっても、これまで通りに経営者の指示に従って行動すれば、引き続き成長できると考える人もいるでしょう。
一方で、経営者自身も、以前は全てを把握できていた状態が変わり、全てを理解することが難しくなるという事実を受け入れたくない、またはそのような状況が起こること自体を想像できないかもしれません。
視野に対する理想と現実
従業員から次のような発言があった場合、もしかしたら視野に対する勘違いが発生しているのかもしれません。
「お客さまのことを本当に考えてますか?」
「お客さまが求めているものが理解できてます?」
「従業員の状況がわかってますか?」
このような発言があったとしたら、視野に対する理想と現実を理解する必要があるのかもしれません。
従業員や経営側が求める理想は図.1(経営者や従業員が求める理想的な視野)ですが、実際は、図.2(組織の成長によって変化する現実的な視野)の視野といえます。
つまり、ひとりの人間が把握できる視野には限界があるため、ビジネスの成長に比例して組織の規模も拡大してしまうと、すべてを把握することが難しくなります。
この変化に気づかず放置した場合、従業員から経営者や上級管理職への経営批判やマネージメント批判が起こり始めるでしょう。
問題はマネージメントやルールが曖昧なこと
これらの問題は、経営者や上級管理職のスキル不足や、現場への理解不足から起きているわけではありません。問題の根本原因は、適切なシステムやルールが存在しないことです。この重要な事実に気づかず、経営者や上級管理職、そして従業員が「図2」のような誤った視野に基づいて理想を追い求めることで、不満が生じ、生産性が下がり、従業員のモチベーションも低下してしまいます。
このような誤解を生む原因を解消するためには、仕組みを整備することが重要です。
「ビジネス成長過程で組織に発生する障壁とは」の記事でもこの点を説明していますので、そちらもぜひ参照してみてください。
誤解を取り除く仕組み化について
その仕組み化には、以下のような取り決めが必要になります。
- ミッション・ビジョン・バリューの浸透
- 権限の委譲
- 部門および個人に対する業務・役割の明確化
- コミュニケーション
- 規則・ルールの遵守(マネージメント)
- 人材の教育
本記事では、これらの取り決めについて簡単に説明をさせていただきますが、ISO56000シリーズ(イノベーション・マネージメントシステム)では必要な要素として説明されております。
ミッション・ビジョン・バリューおよび目標の浸透
創業当初は少人数のため共有できたミッション・ビジョン・バリューや目標も、組織が成長し、新しい従業員が増えてくると、それぞれが経験した価値観によって判断と決定、行動が行なわれ、個人事業主の集合体のような感覚になってしまうことがあります。
組織として目的意識を共通化し、言語化することで価値観が統一され、コミュニケーションロス(認識のズレ)が大幅に削減されるようになります。
権限の委譲
権限の委譲は、ビジネスの柔軟性と俊敏性を高め、個人にも自己判断や自律的な行動を促すことができます。しかし、権限を委譲しても行動が変わらないという問題が生じることがあります。
その理由は、権限を委譲したつもりでも相手がそのように受け取っていないというコミュニケーションロス(認識のズレ)が一つの原因です。
役職や役割を与えたからといって、自動的に権限が委譲されたと思い込む傾向がありますが、相手がどのような行動をすべきかやどこまで判断できる権限があるのかといった曖昧な部分が存在した場合、結果的に自分自身で判断できずに上司に相談することになり、生産性が向上しない結果になる場合があります。
役割と権限を明確に説明し、権限を委譲したことを宣言することで、コミュニケーションロス(認識のズレ)が改善します。
部門および個人に対する業務・役割の明確化
前述の「権限の委譲」の課題を解決するためには役割や権限を業務記述書などを作成して明文化する必要があります。明文化した内容を担当者に説明をすることで生産性を向上させることができます。
この行いをせずに、一緒に働いてきたのだから、当然ながら理解しているだろう、わかるだろうという判断は、結果的にコミュニケーションロス(認識のズレ)が生まれ、生産性を低下してしまう恐れがあります。
この項目は、「権限委譲」に相互に関連する項目となります。
コミュニケーション
この項目では、SlackやTeams、メールなどのコミュニケーションツールについてということではありません。伝え方と伝えた内容へのコミットメントという意味として捉えてください。
現在のプロセスから次のプロセスへ移るときには、情報伝達などの決めごとが必要になります。
伝達された情報の粒度や内容に齟齬がある場合、次のプロセスを担当するメンバーや個人がタスクとして認識しないという誤解が生じます。このような事態に陥らないためには、ONES ProjectやAsana、Notion、Trelloのようなチケット駆動型のタスク管理ツールに依頼として記入したり、Microsoft Wordなどで作成した公式な文書で正式に依頼するなど、伝え方のルールを明確にすることで、コミュニケーションロス(認識のズレ)は大幅に軽減されます。
規則・ルールの遵守(マネージメント)
各項目で述べた、権限・役割、ルールなどを公式に文書化し、関係者に告知し認知させることが大切です。そして決定したルールは社長を含めた全従業員が必ず遵守させることが大切です。
もしルールに無理があり、改善要望などがあった場合は、正式な手続きにそって改善要望として提言することもマネージメント側の責任になります。
人材の教育
業務記述書や目標管理シートなどを作成して、組織が求める能力や成果指標が明確になったとしても、それを達成するための指導を怠ってはいけません。
組織やビジネスの中心は「人」であり、人が成長するためには、教育と経験を得るための時間を確保することが重要な要素です。
たとえば、「デザイン思考」や「リーン思考」といった研修を受けたとしても、業務はマニュアルやルールに従って厳密に行われる限り、得た知識が経験に変わることはありません。
例として、3Mの15%ルールが有名な活動です。
この項目では、組織のミッション・ビジョン・バリューおよび目標に合わせた教育と経験を得るための時間を確保することが求められます。
まとめ
ここまで述べた内容は、ISO56002(イノベーション・マネージメントシステム)でガイドラインとして記載している内容と同意となります。そのため組織のライフサイクルのすべての段階においてISO56002の要素は活用できるものとなっています。
ISO56002については、ビジネスのアジリティを最速化するイノベーション・マネジメント(ISO56002)とは をご参照ください。
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