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BSLが切り拓く新時代:オープンソースと商用ライセンスの理想的融合

  • 著者 : 小薗井 康志@Kyndryl
  • 25.01.09
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はじめに

オープンソースライセンスを正しく理解し、適切に活用することで、技術革新が促進され、コスト削減や法的リスクの軽減が可能となります。また、他社や開発者との協力が進み、大規模な技術エコシステムの構築も実現できます。これにより、一企業や個人だけでは達成できない高度なイノベーションが生まれます。

しかし、オープンソースを活用する企業が増える一方、オープンソースを支えるエンジニアやコミュニティには十分な恩恵が行き渡らず、活動の継続が難しくなるという問題も指摘されています。

こうした課題を解決するため、近年では利用者にとって負担が少なく、開発者側が継続的にソフトウェア開発を続けられるよう設計された、新しいオープンソースライセンスが登場しています。


BSL (Business Source License) の概要

1. BSL(Business Source License)とは?

BSL (Business Source License) とは、MariaDB社が初めて発表した、オープンソースと商用ライセンスの中間に位置するハイブリッドライセンスです。このライセンスは、ソフトウェア開発企業が利益を確保しながら、コミュニティにオープンソースの恩恵をもたらすことを目的としています。

BSL の特徴は、オープンソースの利用者がソフトウェアを商用目的で利用する際、別途商用ライセンスを取得する必要がある場合がある点にあります。また、非商用目的の利用では無償で使用できるケースが多く、オープンソースの柔軟性と商用性をバランスよく融合させたライセンス形式です。

2. 主要な特徴

(1) 利用制限期間

BSL では「利用制限の有効期間」が設定されています。この期間中、商用利用など特定の用途には制限が課されます。一般的な利用制限期間は 4 年とされていますが、ソフトウェア提供者が独自に設定することも可能です。

(2) オープンソースへの移行

利用制限期間が終了すると、ソフトウェアは通常のオープンソースライセンス(例: Apache License 2.0 や GNU GPL)に移行します。 例として、MariaDB は BSL の制限期間終了後に GNU GPLライセンス へ移行します。

(3) 非商用利用の自由

多くの場合、非商用目的では無償で自由に利用可能です。この点が商用利用者向けの制限との対比として特筆すべき特徴です。

(4) 改変と再配布

制限期間中でも、一定の条件下でコードの改変や再配布が可能です。ただし、その用途や方法に制限が課されることがあります。


なぜこのようなライセンスが必要なのか?

なぜBSLのようなライセンスが必要になったのか?そこには既存のオープンソースライセンスの課題がありました。

1. 商用収益の確保が困難

多くのオープンソースソフトウェアは無料で利用できるため、ソフトウェア開発にかかったコストやリソースを回収するのが難しい状況があります。特に以下のようなケースで課題が顕著になります。

  • クラウドサービスプロバイダーの利用:大手クラウド事業者(例: AWS, Google Cloud, Microsoft Azure)は、他社が開発したオープンソースソフトウェアを活用して商用サービスを提供しています。この場合、ソフトウェアの収益はクラウド事業者に集中し、開発元や開発コミュニティにはほとんど還元されない状況が続いていました。

2. オープンソースの課題

  • オープンソースライセンス(例: Apache 2.0、MIT ライセンス)は、再利用、改変、および商用利用を広範囲に許可しています。その結果、ソフトウェア提供者が十分な利益を得られず、一部の利用者が不公平な形で利益を得る事態が生じています。
  • 開発コミュニティや支援企業が収益を得られないと、開発プロジェクト自体が持続できなくなるリスクもあります。

オープンソースモデルのこうした課題を解決し、開発者と利用者の双方にとって公平なルールを提供するのが BSL の主な狙いです。


BSL の狙いと効果

BSL の導入によって、以下の効果が期待されています。

1. 商用利用の収益化

  • BSL により、ソフトウェア提供者は商用利用者からライセンス料を徴収することが可能です。
  • 制限期間中の収益化により、開発者や企業は必要なリソースを確保しやすくなります。

2. 公平性の実現

  • 制限期間終了後にオープンソースライセンスへ移行することで、最終的にソフトウェアがコミュニティ全体の共有資産となります。
  • 初期段階では収益化を図りつつ、長期的にはオープンソースの理念を守る仕組みです。

3. 持続可能な開発のサポート

  • ライセンス料を通じた収益確保が可能になるため、開発者や企業がソフトウェアを継続的に改善しやすい環境を提供します。

MariaDB における BSL の背景

MariaDB社は、データベース管理システム『MariaDB』を提供する企業です。MariaDB はもともと GNU GPLライセンスで提供されていましたが、クラウドサービス事業者が MariaDB を活用して収益を上げる一方で、MariaDB社にはほとんど利益が還元されない問題に直面しました。

これを受けて MariaDB社はBSLを導入しました。収益の一部を確保しながら、最終的にはソフトウェアをオープンソースライセンスへ移行するという持続可能な仕組みを模索しました。

同じくTerraformやVaultなどのインフラストラクチャ管理ツールで知られるHashiCorpも2023年に、従来のオープンソースライセンス(例: Mozilla Public License 2.0)からBSLへの移行を決定しました。

HashiCorpのビジネス・ソース・ライセンス採用について、共同設立者のアーモン・ダドガー氏と議論(Youtubeビデオ、英語)

Discussion with Co-founder Armon Dadgar about HashiCorp’s adoption of the Business Source License – YouTube


クラウド時代における新たな課題への対応

現代のソフトウェア開発と利用は、クラウドサービスが主流となりつつあります。この状況が BSL の誕生を後押ししました。

クラウドサービスプロバイダーの影響

  • 大規模なクラウド事業者がオープンソースソフトウェアを商用サービスに組み込み、その収益を独占する状況があります。
  • これにより、開発者や元のプロジェクトが十分な利益を得られず、持続可能性が脅かされています。

中小規模開発者の競争力低下

  • 中小企業や独立開発者にとって、クラウド事業者の力が強まる現在の環境では、競争力を維持するのが難しくなっています。

開発の持続可能性確保

  • ソフトウェア開発には多大なコストがかかるため、適切な収益モデルなしではプロジェクトの継続が困難になる場合があります。

まとめ

BSLライセンスは、クラウド時代におけるオープンソース収益化の課題に応える、実用的かつ持続可能な解決策です。商用利用の収益化とオープンソース化のバランスを取りながら、以下の目的を実現します。

  • 開発者と企業にとっての収益確保
  • オープンソースコミュニティへの貢献
  • 継続的な開発の支援

BSLライセンスは、ソフトウェア開発側と利用者双方に新たな可能性を提供し、オープンソースの未来を切り拓くライセンスとして位置付けられています。


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この記事の監修者

小薗井 康志@Kyndryl

半導体(インテル)の技術者から経営者、サーバーベンダー(Dell)の技術者を経て現在日本アイ・ビー・エム株式会社でIT Specialistとして働いております。クラウド上で様々な面白いアプリケーションを多くの人が開発できるようにSoftLayerを中心にIBMのクラウド製品をサポートしております。

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