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なぜ企業の新規事業は「始まるのに、育たない」のか

  • 著者 : INNOVATION WORLD 編集部
  • 26.08.28

計画を守る経営から「仮説を更新する経営」への転換

多くの企業で、毎年さなざまな新規事業が企画されています。

社内公募制度やアイデアコンテストを活用し、DX、生成AI、脱炭素、ヘルスケアなどをテーマに、新たなプロジェクトが立ち上がっています。

一方、実証実験までは進んだものの事業化されない、事業化しても売上が伸びない、当初の計画から外れたことで社内評価が低下するなど、新規事業が十分に成長する前に停滞するケースもあります。

では、こうした企業は、新規事業を生み出す力が弱いのでしょうか。

必ずしも、そうとは言えません。

新しいアイデアを生み出し、企画し、実証実験を行うための手段は広がっています。それでも新規事業が成長しない背景には、事業を「起こす力」だけでなく、市場に合わせて「変える力」を経営の仕組みに組み込めていないという課題があります。

多くの企業では、新規事業を立ち上げるまでの社内調整に多くの労力を要する一方、いったん承認された後は、その計画から外れにくくなります。

しかし、新規事業は必ずしも計画通りに進むとは限りません。市場から得られた情報をもとに、顧客、商品、価格、販売方法、収益モデルなどを見直していく必要があります。

変更のたびに説明と承認を求められる組織では、市場への対応よりも社内手続きが優先されかねません。

その結果、新規事業は「始まること」はできても、「育つこと」ができなくなるのです。


新規事業そのものより、始めるための社内手続きが難しい

新規事業では、事業そのものだけでなく、社内で承認を得るまでの過程にも多くの労力を要します。

新規事業の企画を通すためには、市場規模、顧客ニーズ、競合環境、収益予測、投資回収期間、実施体制、リスク、既存事業との相乗効果など、さまざまな情報を整理しなければなりません。さらに、経営会議や投資委員会、関係部門への説明資料を作り、想定される質問に備える必要があります。

  • 「市場は本当に存在するのか」
  • 「なぜ当社が取り組む必要があるのか」
  • 「競合他社との差別化は何か」
  • 「何年後に黒字化するのか」
  • 「失敗した場合の損失はいくらか」

こうした質問自体は、経営判断として当然です。限られた経営資源を配分する以上、一定の検討と審査は欠かせません。問題は、不確実性の高い新規事業に対して、既存事業と同じ精度の予測や根拠を求めることです。

既存事業であれば、過去の売上実績、顧客数、原価、販売チャネルなどのデータがあります。前提条件が大きく変わらなければ、翌年度の収益をある程度予測できます。

一方、新規事業には十分な実績がありません。顧客が本当に購入するのか、適切な価格はいくらか、どの販売チャネルが有効なのかは、実際に市場へ出し、顧客と接触しなければ分かりません。

それにもかかわらず、社内承認を得るためには、あたかも将来が見えているかのような事業計画を作ることが求められます。その結果、新規事業担当者は、「分からないことを、分かっているように説明する」という矛盾した状況に置かれます。

本来、新規事業に必要なのは、不確実性を減らすための実験です。しかし、社内承認では、不確実性がすでに解消されているような説明が求められます。ここに、新規事業が始まる前から抱える構造的な矛盾があります。


立派な事業計画ほど、事業を変更しにくくする

時間をかけて作られた事業計画は、社内承認を得るうえでは有効です。

しかし、事業が始まった後には、別の問題を生みます。

経営会議で承認された計画には、売上目標、対象顧客、商品内容、価格、スケジュール、投資額などが記載されています。担当者は、その計画を前提に予算と人員を与えられます。

ところが、新規事業を市場に出すと、当初の仮説と異なる事実が次々と見つかります。

  • 想定していた大企業よりも、中小企業の反応が良い
  • 月額課金よりも、初期導入費と運用支援を組み合わせた契約の方が受け入れらる
  • 製品単体では売れず、コンサルティングや業務設計を組み合わせる必要がある
  • 想定していた利用部門ではなく、別の部門に強い課題がある

これらは失敗ではなく、市場から得られた重要な学習です。本来であれば、その学習に基づいて事業を修正すべきです。

しかし多くの企業では、顧客や価格、提供方法を変更しようとすると、次のような説明を求められます。

  • 「なぜ当初の計画と違うのか」
  • 「最初の市場調査が不十分だったのではないか」
  • 「変更によって売上計画はどう変わるのか」
  • 「もう一度、経営会議にかける必要があるのではないか」

こうして、事業を変更することが、仮説の更新ではなく、当初計画の誤りを認める行為として扱われます。すると担当者は、市場から得られた情報に基づいて事業を修正することよりも、承認された計画を守ることを優先し始めます。

市場から「このままでは売れない」という情報を得ていても、計画変更によって評価が下がるのであれば、できるだけ当初計画の範囲内で説明を続けようとします。

表面的には計画通りに進んでいるように見えても、事業の成長につながらないまま時間が経過していきます。つまり、承認を得るために作り込んだ計画が、承認後には事業変更の制約となるのです。


新規事業の現場では、失敗よりも「説明できないこと」を恐れている

新規事業において、失敗への懸念は当然あります。しかし、現場では失敗そのもの以上に、「なぜそうなったのかを説明できない状態」が問題になることがあります。

  • 売上が計画に届かなかったとき、なぜ未達だったのか
  • 想定顧客を変更したとき、なぜ当初の想定が外れたのか
  • 予算を追加するとき、最初の見積もりに何が不足していたのか

管理職や経営者は、社内で説明責任を負っています。担当部門から上がってきた案件を承認すれば、その結果について上位者や取締役会に説明しなければなりません。

その結果、説明しやすい計画が選ばれやすく、説明の難しい変化が避けられる傾向が生まれます。しかし、新規事業において、すべての変化を事前に説明することはできません。

そもそも新規事業は、未知の顧客、未知の市場、未知の技術を扱う活動です。不確実性があるからこそ新規事業であり、不確実性がほとんどなければ、それは既存事業の拡張に近いものです。

ところが、「現時点では分からない」という説明が認められにくい組織では、担当者は仮説を事実のように示し、承認者もその仮説を前提に判断します。

その後、仮説が外れると、「なぜ予測できなかったのか」という議論になります。この構造では、担当者は学習するほど不利になります。市場から新しい事実を得て計画を修正すると、当初の説明との矛盾を指摘されるからです。

その後、仮説が外れたときに「なぜ予測できなかったのか」と問われると、担当者は新たに得られた事実をもとに計画を変更することに慎重になりやすくなります。

結果として、仮説を素早く更新することよりも、当初の説明を守り続けることが安全な行動になってしまいます。


既存事業の管理手法を、新規事業に持ち込んでいないか

多くの企業の経営管理制度は、既存事業を安定的かつ効率的に運営するために設計されています。

年度予算を策定し、月次で実績との差異を確認し、問題があれば是正する。投資案件は、投資額、回収期間、収益性、リスクを審査する。各部門は年度目標を持ち、達成率によって評価されます。

この仕組みは、成熟した既存事業には有効です。

既存事業では、計画と実績の差が大きければ、実行に問題がある可能性があります。営業活動が不足している、コスト管理が甘い、納期が遅れているといった原因を特定し、改善する必要があります。

しかし、新規事業における計画との差異は、必ずしも実行不足を意味しません。

  • 当初の顧客仮説が違っていた
  • 顧客が想定とは異なる価値を求めていた
  • 競合が新しいサービスを投入した
  • 技術環境が変化した

など、事業の前提そのものが変わっている場合があります。

このとき必要なのは、当初計画に戻すための是正ではなく、計画そのものの見直しです。しかし、新規事業を既存事業と同じ方法で管理すると、計画との差異を埋めること自体が目的になりやすくなります。

  • 売上が不足すれば営業件数を増やす
  • 利用者が増えなければ広告を追加する
  • 開発が遅れれば人員を投入する

しかし、対象顧客の仮説や価値提案そのものが適切でなければ、活動量を増やしても成果にはつながりません。管理を強化することによって、適切でない前提のまま活動が加速する可能性があります。

管理職には、一般に計画を立て、進捗を確認し、問題を修正しながら目標を達成する能力が求められます。これは既存事業を管理するうえで重要な能力です。

一方、新規事業では、仮説と事実を区別し、早い段階で小さく検証し、想定と異なる結果が得られたときには方針を変更する必要があります。また、担当者に一定の裁量を与えながら、損失を限定する視点も欠かせません。

このような「不確実性を管理する能力」が求められます。


ISO 56001は「新規事業の正解」を教える規格ではない

こうした課題に対し、重要な示唆を与えるのが、イノベーション・マネジメントシステムの国際規格であるISO 56001です。

ISO 56001:2024は、2024年に発行されたイノベーション・マネジメントシステムの要求事項規格です。組織がイノベーション・マネジメントシステムを確立し、実施、維持、継続的に改善するための要求事項を定めています。

ここで注意したいのは、ISO 56001が、売れる新規事業のアイデアや成功するビジネスモデルを教える規格ではないという点です。どの市場へ参入すべきか、どの技術へ投資すべきか、どの製品が売れるかといった具体的な答えを、規格が示すものではありません。

ISO 56001とISO 56002の違いを整理すると、次のようになります。

規格 位置づけ 主な内容
ISO 56002 ガイダンス規格 イノベーション・マネジメントシステムに関する指針を示す
ISO 56001 要求事項規格 組織がイノベーション・マネジメントシステムを確立・実施・維持し、継続的に改善するための要求事項を定める

つまり、ISO 56001が示すのは「どの新規事業なら成功するか」という答えではなく、組織が継続的にイノベーションへ取り組み、価値実現につなげるためのマネジメントの仕組みです。


ISO 56001が問うのは、担当者の能力ではなく経営の仕組みである

新規事業が停滞したとき、担当者の能力や意欲に原因を求めてしまうことがあります。

  • 「もっと当事者意識を持ってほしい」
  • 「経営者視点が足りない」
  • 「営業力が不足している」
  • 「最後までやり切る力が弱い」

もちろん、担当者の能力が影響する場合もあります。しかし、担当者に行動力を求めながら、行動するたびに承認を必要とする制約を残しているのであれば、問題は個人だけにあるとは言えません。

  • 変化に対応するよう求めながら、計画変更をマイナス評価する
  • 迅速な意思決定を求めながら、複数部門の合意を必須にする
  • 部門横断で取り組むよう求めながら、各部門には従来業務の目標しか与えない

このような矛盾がある組織では、担当者が新たな挑戦や方針変更をためらいやすくなります。ISO 56001の考え方が重要なのは、イノベーションを担当者個人の努力としてではなく、組織全体のマネジメント課題として捉えるからです。

経営層には、方向性を示し、必要な資源を提供するとともに、役割と権限を定め、活動を評価し、その結果を改善につなげることが求められます。つまり、経営者や管理職自身が、イノベーションを生み出せる環境を設計する必要があります。

新規事業担当者に「もっと挑戦しろ」と求めるだけでは、イノベーション・マネジメントとは言えません。

  • 挑戦した人が不利益を受けない評価制度があるか
  • 市場から得た事実に基づいて計画を変更できるか
  • 必要な人材、時間、知識、資金へアクセスできるか
  • 部門間の利害対立を調整する責任者がいるか

これらを経営の仕組みとして整える必要があります。


変化を「逸脱」ではなく、学習の結果として扱う

ISO 56001を新規事業に適用するうえで重要なのは、計画を固定するための仕組みとして運用しないことです。

ISOと聞くと、手順書を作り、決められたプロセスを守り、記録を残すものだと考える人もいます。しかし、新規事業において仕組みを整える目的は、すべての事業を同じ結論へ導くことではありません。

  • 何を仮説として設定したのか
  • どのような方法で検証したのか
  • どのような事実が得られたのか
  • その結果、どの前提を維持し、どの前提を変更したのか
  • 次の投資判断をどのような基準で行ったのか

こうした学習と意思決定の流れを明確にし、組織として改善できるようにすることが重要です。

当初計画からの変更を「計画逸脱」として扱えば、担当者は得られた事実や変更の必要性を共有することに慎重になりやすくなります。一方、変更を「仮説検証の結果」として扱えば、得られた事実を早い段階で共有し、次の判断につなげやすくなります。

例えば、想定していた顧客層から十分な反応が得られなかった場合、「営業努力が不足している」と結論づける前に、顧客の課題設定や価値提案が妥当だったかを確認する必要があります。


市場のスピードと社内意思決定のスピードを合わせる

新規事業の成長を妨げるもう一つの要因は、市場と社内の時間感覚の違いです。

顧客ニーズや競合環境は、短期間で変化することがあります。特に生成AIやクラウドサービスなどの技術分野では、半年前の前提が現在では意味を持たないこともあります。

一方、社内の承認プロセスは、市場の変化と同じスピードで進むとは限りません。

担当者が変更案を作成し、上位職への説明や関連部門との調整を行い、経営会議などの意思決定を待つ。予算変更を伴えば、財務部門や経営企画部門との協議も必要になります。

市場では迅速な判断が求められる一方、社内の意思決定に時間を要すれば、その間に顧客の関心が変化したり、競合が先に提案したりすることで、事業機会を逃す可能性があります。

慎重な承認プロセスは、企業にとって重要なリスク管理の一つです。しかし、意思決定に時間を要しすぎれば、市場への対応が遅れる要因にもなります。

新規事業では、最初から完全に正確な判断を行うことよりも、修正可能な判断を早く行うことが重要です。完璧な情報がそろうまで待つのではなく、小規模な実験を行い、その結果をもとに次の判断へ進む。この繰り返しによって、不確実性を減らしながら事業の精度を高めていきます。


必要なのは、承認をなくすことではなく「判断範囲」を明確にすること

承認手続きが成長を妨げるからといって、すべての承認を廃止すればよいわけではありません。

企業には、予算管理だけでなく、法務、セキュリティ、品質、安全などのリスクを適切に管理する責任があります。新規事業だからといって、すべてを現場の裁量に委ねることはできません。

必要なのは、承認の有無ではなく、現場と経営の「判断範囲」をあらかじめ明確にすることです。具体的には、次のような点を整理します。

  • 誰が、どの範囲まで判断できるのか
  • どの条件を超えたら上位の承認が必要なのか
  • どの情報を共有すれば、現場で方針を変更できるのか

例えば、一定の予算内であれば、対象顧客、価格、提供方法、検証手段を担当チームが変更できるようにします。変更のたびに承認を求めるのではなく、あらかじめ現場の裁量範囲を定めておきます。

経営層が判断すべきなのは、すべての施策の詳細ではありません。事業の継続、追加投資、他事業との統合、撤退など、経営資源の配分に関わる判断です。

一方、顧客への提案内容、価格テスト、販売チャネル、検証方法などは、現場が市場の反応を見ながら柔軟に変えられるようにします。この役割分担が曖昧な組織では、担当者は小さな変更にも承認を求めます。その結果、意思決定が上位職へ集中します。

管理職に求められるのは、すべてを自ら判断することではありません。何を現場に任せ、どの条件を超えたときに報告や承認を求めるのか、その境界をあらかじめ定めることです。


売上だけでなく「学習の質」を管理する

新規事業も、最終的には売上や利益を生み出さなければなりません。

ただし、事業の初期段階から売上だけで評価すると、短期的な売上の確保が優先されやすくなります。

  • 本来の対象顧客ではない既存顧客に無理に販売する
  • 値引きして受注する
  • 個別要望に対応しすぎて、標準化できないサービスになる

こうした行動は一時的な売上に繋がる一方で、事業の再現性や成長可能性を損なうことがあります。

初期段階で確認すべきなのは、売上額だけではありません。

  • どの顧客が強い課題を抱えているのか
  • 顧客は何に対して対価を支払うのか
  • 継続利用につながる要因は何か
  • 再現性のある販売方法を確立できるか
  • 提供コストを抑えられるか
  • 自社が継続的に価値を提供できるか

これらの問いに答えられるようになって初めて、事業を拡大できます。

したがって、管理職は新規事業の進捗を確認するとき、「売上はいくらか」だけでなく、「何が分かったのか」を問う必要があります。

  • どの仮説を検証し、何がわかったのか
  • どの前提を見直す必要があるのか
  • 顧客の反応を受けて、何を変更したのか
  • 追加投資によって、どの不確実性を減らすのか

重要なのは、仮説が最初から当たっていたかどうかだけではありません。外れた仮説から、どれだけ早く学び、次の行動に反映できたかです。

新規事業において重要なのは、失敗の有無だけではなく、そこから何を学べたかです。損失を限定しながら重要な不確実性を減らせたのであれば、その経験は次の意思決定に活かせます。一方、同じ仮説を十分に検証しないまま長期間続ければ、学びを得られないまま時間と予算を費やすことになります。

ISO 56001を活用する意義も、活動件数を増やすことではなく、こうした学習と意思決定の質を組織として高めることにあります。


管理職が変えるべきは、担当者ではなく評価の前提

新規事業への挑戦がキャリア上のリスクと受け取られれば、参加をためらう人材が増える可能性があります。

新規事業では、成果がでれば評価されるものの、失敗すれば能力不足と見なされる事があります。一方、既存事業では前年並みの成果を維持することが、安定した評価に繋がる場合があります。

この条件で、優秀な人材に新規事業への挑戦を求めても、合理的な行動とは言えません。管理職が見直すべきなのは、担当者の精神論ではありません。計画通りに進めた人と、市場から学びながら適切に方針転換した人を、どのように評価するのかという前提です。

  • 方針転換を「ぶれ」と見るのか、「学習の結果」と見るのか
  • 当初の売上計画を達成できなかったことだけを見るのか、成長可能性の低い仮説を早期に否定し、損失を抑えたことも評価するのか

こうした評価の違いは、新規事業における行動のしやすさを大きく左右します。ISO 56001を導入しても、人事評価や予算制度が従来のままであれば、現場の行動変容にはつながりにくいでしょう。イノベーション方針を掲げるだけではなく、権限、資源配分、評価、意思決定、知識共有などの仕組みを整合させる必要があります。


「計画を守る経営」から「前提を更新する経営」へ

新規事業において、計画は必要です。ただし、その役割は、計画通りに進めることではなく、何を検証し、どの条件で次の投資判断を行うのかを明確にすることにあります。

計画との差異を責任追及の材料にするのではなく、学習の起点にします。

  • 「なぜ計画通りに進まなかったのか」と問うだけではなく、「どの前提が異なっていたのか」と問う
  • 「いつ当初計画に戻せるのか」と問うのではなく、「どの方向へ修正すれば、価値実現の可能性が高まるのか」と問う

こうした問いの変化は、単なる言葉の違いではありません。新規事業を「決められた計画の実行活動」ではなく、「不確実性を減らしながら価値を実現する活動」として捉えるという、経営の前提そのものの転換です。

では、そのために具体的に何を見直せばよいのでしょうか。


新規事業を成長させるための6つの見直し

新規事業の成長速度を高め、ISO 56001の考え方を実務へ落とし込むためには、次の6つの観点から経営の仕組みを見直すことが重要です。

1)事業計画を確定事項ではなく仮説として扱う
  計画との差異そのものを問題視するのではなく、市場から得られた事実をもとに前提を見直します。

2)現場が変更できる範囲を事前に定める
  一定の予算や条件の範囲内で、対象顧客、価格、提供方法、検証手段など、現場が変更できるようにします。

3)段階的な投資判断を行う
  最初から大きな予算を一括承認するのではなく、検証結果に応じて、継続、追加投資、修正、撤退を判断します。

4)評価指標を事業段階に応じて変える
  探索段階では仮説検証や顧客理解、事業化段階では継続率や販売の再現性、成長段階では売上や利益を重視します。

5)撤退を失敗として扱わない
  撤退によって得られた知見を、次の投資判断や新たな挑戦に活かします。

6)個別の新規事業だけでなく、仕組みそのものを改善する
  仮説設定、承認、支援などの課題を組織で共有し、次の新規事業へ反映します。

この6つに共通するのは、新規事業を「一度承認した計画を実行する活動」から、「学習しながら投資判断を更新し、組織能力を高める活動」へ変えることです。


ISO 56001の認証取得することと、イノベーションの実現は同じではない

ISO 56001への関心が高まる一方で、注意すべきこともあります。

  • ISO 56001の認証を取得しても、経営の仕組みや現場の行動が変わらなければ、イノベーションの実現にはつながらない
  • 既存の会議や稟議にISO 56001の考え方を形式的に加えるだけでは、意思決定の改善にはつながりにくい
  • アイデア件数や研修受講者数など、活動量だけでイノベーションを評価しない

ISO 56001を有効に機能させるには、規格への適合そのものを目的にするのではなく、自社のイノベーションを妨げている構造を特定し、改善につなげることが重要です。

そのためには、次のような問いに向き合う必要があります。

  • 自社では、事業のどの段階で意思決定が止まるのか
  • 担当者は市場と社内のどちらに多くの時間を使っているのか
  • 計画変更は、学習として評価されているか、失敗として扱われているか
  • 経営者は、挑戦を求める一方で、挑戦できる権限と資源を提供しているか

こうした問いに向き合わず、手順や文書だけを整備しても、組織のイノベーション能力の向上にはつながりにくいでしょう。

ISO 56001は、認証取得のためだけの仕組みではなく、自社の経営に潜む矛盾や課題を映し出す「鏡」として活用するのがよいでしょう。


社内手続きが市場より強い会社では、新規事業は育たない

新規事業が成長しにくくなる要因の一つは、市場から得られた事実よりも、社内で承認された計画や手続きが優先されてしまうことです。

新規事業を始めるための承認制度は、多くの企業にあります。一方、始めた後に市場から得られた事実に基づいて事業を変えるための仕組みは、十分に整っているとは限りません。

これから企業が問うべきなのは、「どの新規事業を始めるか」だけではなく「始めた後、市場から得られた事実に基づいて、どれだけ早く変えられるか」です。

新規事業を「始めるだけ」で終わらせず、将来の成長事業へ育てるためには、最初の計画を守り続けることではなく、市場から学び、前提を更新し続けられる経営の仕組みが求められます。


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INNOVATION WORLD 編集部

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