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イノベーションは「成果」ではなく「価値」で測る オスロ・マニュアルとISO 56001から考える、種類別の価値測定

  • 著者 : INNOVATION WORLD 編集部
  • 26.06.22

「何をやったか」から「どんな価値を生んだか」へ

多くの企業が、いまイノベーションの必要性を強く認識しています。既存事業の成長鈍化、人口減少による国内市場の縮小、生成AIの普及、グローバル競争の激化、サプライチェーンリスクの高まり、顧客の価値観の変化など、企業を取り巻く環境は大きく変わりました。

そのような中で、企業は新規事業開発、DX、生成AI活用、業務改革、オープンイノベーション、社内提案制度、アイデア募集、プロジェクト管理の高度化など、さまざまな活動に取り組んでいます。

しかし、ここで見落とされやすい重要な論点があります。
それは、多くの企業が「イノベーション活動を実施したこと」は測定していても、「その活動によって、どのような価値が生まれたのか」までは十分に測定できていないことです。

新製品を出した。新規事業プロジェクトを立ち上げた。アイデアを集めた。PoCを実施した。業務プロセスを見直した。AIツールを導入した。サプライチェーンを再設計した。これらは、いずれも重要な取り組みです。

しかし、それだけではイノベーションが実現されたとは言えません。

イノベーションで問われるべきことは、「何を実施したか」ではなく、「誰に、どのような価値が生まれたか」です。顧客の課題が解決されたのか。市場に新しい選択肢を提供できたのか。業務の生産性が高まったのか。意思決定が速くなったのか。リスクが下がったのか。組織が継続的に学習できるようになったのか。こうした価値の変化を測定しなければ、イノベーション活動は単なる施策の実行で終わってしまいます。

本稿では、オスロ・マニュアル2018年版で示されたイノベーションの2つの種類、すなわち「プロダクト・イノベーション」と「ビジネスプロセス・イノベーション」に基づき、それぞれの価値測定の方法を整理します。さらに、ISO 56001におけるパフォーマンス評価と改善の観点から、企業がどのようにイノベーションの価値を測定すべきかを考えます。


イノベーションの分類は「4種類」から「2種類」へ整理された

かつてオスロ・マニュアルでは、イノベーションは大きく4種類に分類されていました。プロダクト・イノベーション、プロセス・イノベーション、マーケティング・イノベーション、組織イノベーションです。

この分類は実務上も分かりやすく、多くの企業で使われてきました。新製品や新サービスを生み出す活動はプロダクト・イノベーション、業務や製造方法を変える活動はプロセス・イノベーション、販売方法や市場への訴求を変える活動はマーケティング・イノベーション、組織体制や意思決定の仕組みを変える活動は組織イノベーションとして捉えることができたからです。

一方、2018年版のオスロ・マニュアル第4版では、イノベーションの分類は大きく2つに整理されました。
それが「プロダクト・イノベーション」と「ビジネスプロセス・イノベーション」です。

プロダクト・イノベーションとは、企業が市場に導入する新しい、または改善された製品やサービスを指します。ここでいうプロダクトには、物理的な製品だけでなく、サービスも含まれます。

一方、ビジネスプロセス・イノベーションとは、企業内外の業務プロセスにおける新しい、または改善された方法を指します。生産、物流、販売、マーケティング、アフターサービス、情報システム、管理業務、組織運営、外部連携、製品開発プロセスなど、幅広い業務が対象になります。

つまり、従来のプロセス・イノベーション、マーケティング・イノベーション、組織イノベーションの多くは、2018年版ではビジネスプロセス・イノベーションの中に含めて考えることができます。

この整理は、企業にとって重要な意味を持ちます。
なぜなら、イノベーションを「新しい商品を出すこと」だけに限定せず、組織の業務や仕組みの変革も含めて捉えることができるからです。

たとえば、営業プロセスの見直しによって顧客への提案スピードが上がることも、カスタマーサポートの仕組みを変えて顧客満足度が向上することも、サプライチェーンを再設計して供給リスクを下げることも、意思決定プロセスを見直して新規事業の判断が速くなることも、すべてビジネスプロセス・イノベーションとして扱うことができます。

この考え方に立つと、イノベーションの価値測定も大きく2つに分けて考えることができます。

1つは、製品・サービスが顧客や市場にどのような価値を生んだかを測る方法です。
もう1つは、業務プロセスや組織の仕組みが、価値創出力をどのように高めたかを測る方法です。


ISO 56001で求められるのは「活動の管理」ではなく「価値創出能力の評価」

ISO 56001は、イノベーション・マネジメントシステムに関する国際規格です。ここで重要なのは、ISO 56001がイノベーションを偶発的な成功や一部の個人の発想に依存するものではなく、組織として継続的に価値を創出するためのマネジメントシステムとして捉えている点です。

そのため、ISO 56001の観点では、イノベーション活動を単発のイベントや活動量の管理だけで捉えるのでは不十分です。アイデアを集めたか、プロジェクトを立ち上げたか、PoCを実施したか、新製品を発売したか、といった活動量だけでは、イノベーション・マネジメントシステムが機能しているかどうかは判断できません。

問われるべきことは、活動の結果として価値が生まれたかです。
さらに言えば、価値を生み出すための組織能力が高まっているかです。

たとえば、毎年多くの新規事業テーマを立ち上げている企業があるとします。表面的には、活発にイノベーション活動をしているように見えます。しかし、テーマの選定基準が曖昧で、顧客検証が十分に行われず、撤退判断もできず、成果や学習が組織に残らないのであれば、その活動は価値創出につながっているとは言えません。

一方で、プロジェクト数は多くなくても、顧客課題を丁寧に検証し、仮説の正否を明確にし、投資判断と撤退判断を適切に行い、得られた知見を次の企画や既存事業の改善に活用している企業であれば、イノベーション・マネジメントシステムは有効に機能している可能性があります。

ISO 56001におけるパフォーマンス評価とは、単なる成果測定ではありません。
それは、組織が価値を創出する仕組みとして機能しているかを確認する行為です。

そのためには、イノベーションの種類ごとに、価値の測定方法を明確にしておく必要があります。


プロダクト・イノベーションは「顧客が価値を感じたか」で測る

プロダクト・イノベーションの対象は、製品やサービスです。
ここで最も重要な測定対象は、顧客価値です。

新製品を発売したこと、新サービスを開始したこと、新機能を追加したこと自体は、イノベーションの入口にすぎません。それが顧客に使われ、顧客の課題を解決し、顧客が対価を支払う価値として認識したとき、初めてプロダクト・イノベーションの成果を評価することができます。

プロダクト・イノベーションの価値測定で代表的な指標には、顧客満足度、NPS、利用頻度、継続利用率、解約率、顧客課題解決率、新製品売上比率、粗利率、価格プレミアム、導入企業数、新規顧客数などがあります。

ただし、これらの指標を単に並べるだけでは不十分です。重要なのは、どの価値を測ろうとしているのかを明確にすることです。

たとえば、ある業務支援サービスを新たに提供した場合、その価値は売上だけでは測れません。顧客の作業時間が短縮されたのか。顧客のミスが減ったのか。顧客が自力で業務を完了できるようになったのか。問い合わせ件数が減ったのか。意思決定が速くなったのか。こうした顧客側の変化を見る必要があります。

つまり、プロダクト・イノベーションでは、企業側の成果だけでなく、顧客側の状態変化を測定しなければなりません。

新製品を出したとしても、顧客の業務が何も変わっていなければ、価値は限定的です。反対に、売上規模はまだ小さくても、顧客の重要な課題を解決し、継続利用され、価格に対する納得感が高く、顧客の業務や行動が変わっているのであれば、その製品・サービスには大きなイノベーション価値があると考えられます。


プロダクト・イノベーションでは「売上」より前に見るべき指標がある

多くの企業は、新製品や新サービスを評価する際に、売上や利益を重視します。もちろん、事業として継続する以上、売上や利益は重要です。しかし、イノベーションの初期段階で売上だけを見てしまうと、価値の兆候を見誤る危険があります。

新製品やサービスは、最初から大きな売上を生むとは限りません。むしろ初期段階では、顧客課題との適合度、利用状況、継続意向、価格受容性、顧客からの学習量などを重視すべきです。

たとえば、次のような指標が重要になります。

顧客が実際に使っているかを見るためには、利用頻度、アクティブユーザー率、重要機能の利用率を測定します。顧客が価値を感じているかを見るためには、満足度、NPS、継続利用意向、紹介意向を測定します。顧客課題が解決されているかを見るためには、導入前後の業務時間、ミス率、問い合わせ件数、作業完了率などを測定します。

さらに、事業化の可能性を見るためには、有料転換率、リピート率、解約率、平均単価、LTV、価格プレミアムを確認します。
このように、プロダクト・イノベーションの価値測定では、売上を最終的な結果指標としながらも、その前段階にある顧客価値指標を丁寧に見る必要があります。

売上は結果です。
その前に、顧客が使い、価値を感じ、継続し、対価を払う理由が存在します。

ISO 56001のパフォーマンス評価では、この因果関係を明確にすることが重要です。単に「売れた」「売れなかった」ではなく、どの価値仮説が正しかったのか、どの顧客課題に適合したのか、どの機能が利用されたのか、どの価値は顧客に伝わらなかったのかを評価し、次の改善につなげる必要があります。


プロダクト・イノベーションの価値は5つの観点で測る

プロダクト・イノベーションの価値測定は、大きく5つの観点で整理できます。

観点 測定する価値 代表的な指標
顧客価値 顧客が価値を実感しているか 顧客満足度、NPS、課題解決率、利用後評価、問い合わせ削減率、業務時間削減率
利用価値 製品・サービスが実際に使われているか 利用頻度、アクティブユーザー率、機能利用率、継続利用率、再購入率
事業価値 売上・利益・成長性に貢献しているか 新製品売上比率、粗利率、平均単価、LTV、解約率、価格プレミアム
市場価値 新しい顧客層や市場を開拓できたか 新規顧客数、新市場売上、導入企業数、市場シェア、競合からの切替率

学習価値

次の改善や判断に使える知見が得られたか 検証済み仮説数、顧客インサイト数、改善サイクル数、失敗から得た知見の数、次期開発に反映された学習項目

特に重要なのは、学習価値を軽視しないことです。イノベーション活動では、すべての試みがすぐに売上につながるわけではありません。しかし、顧客課題、価格感度、導入障壁、利用行動、競合との差別化要因などに関する知見が得られれば、それは組織にとって重要な資産になります。

プロダクト・イノベーションの評価では、成功か失敗かだけで判断するのではなく、「何を学び、次にどう改善するのか」を測ることが欠かせません。


ビジネスプロセス・イノベーションは「価値を生み出す力が高まったか」で測る

ビジネスプロセス・イノベーションの対象は、業務プロセスや組織の仕組みです。
ここでは、製品やサービスそのものではなく、価値を生み出すための方法が変わったかを見ます。

たとえば、営業プロセスを変える、開発プロセスを変える、調達方法を変える、物流網を再設計する、カスタマーサポートの仕組みを変える、ナレッジ管理を導入する、意思決定プロセスを見直す、部門横断の会議体を整備する、AIを業務に組み込む、プロジェクト管理方法を変えるといった取り組みが該当します。

ビジネスプロセス・イノベーションの価値測定で重要なのは、業務が変わったことではありません。
その業務変更によって、価値創出力が高まったかです。

たとえば、ワークフローシステムを導入したとします。導入そのものは成果ではありません。測るべきことは、承認リードタイムが短くなったか、差し戻しが減ったか、入力ミスが減ったか、進捗が可視化されたか、現場の負荷が減ったか、顧客対応が速くなったかです。

あるいは、営業管理ツールを導入した場合も同じです。ツールを導入したことではなく、商談化率が上がったか、見込み顧客への対応が速くなったか、営業の属人化が減ったか、提案品質が安定したか、受注率が改善したかを測る必要があります。

ビジネスプロセス・イノベーションは、企業の中にある「価値を生む仕組み」を変える活動です。したがって、その測定も、効率、品質、スピード、コスト、リスク、組織学習、顧客提供価値といった観点から行う必要があります。


ビジネスプロセス・イノベーションの代表的な測定指標

ビジネスプロセス・イノベーションの価値は、対象となる業務によって異なります。しかし、代表的な測定領域は共通しています。

第一に、業務効率価値です。
業務にかかる時間や工数が削減されたかを測ります。代表的な指標は、作業時間、処理件数、処理速度、リードタイム、工数削減率などです。

第二に、品質価値です。
ミス、手戻り、不良、再作業が減ったかを測ります。代表的な指標は、入力ミス率、不良率、手戻り件数、再作業工数、クレーム件数などです。

第三に、コスト価値です。
人件費、物流費、在庫費、調達費、システム運用費などが改善したかを測ります。ただし、コスト削減だけを目的化すると、顧客価値や従業員負荷を損なう場合があります。そのため、コスト指標は品質や顧客価値の指標と組み合わせて見る必要があります。

第四に、スピード価値です。
顧客対応、意思決定、開発、納品、調達などのスピードが高まったかを測ります。代表的な指標は、問い合わせ回答時間、受注から納品までの日数、企画から市場投入までの期間、意思決定リードタイムなどです。

第五に、組織価値です。
組織が部門を越えて動けるようになったか、権限と責任が明確になったか、意思決定が適切に行われているかを測ります。代表的な指標は、部門横断案件数、承認ステップ数、権限委譲度、会議削減時間、撤退判断件数などです。

第六に、リスク低減価値です。
業務停止、供給停止、属人化、品質問題、コンプライアンス違反、情報漏えいなどのリスクが下がったかを測ります。代表的な指標は、障害件数、供給停止件数、属人化業務数、代替要員確保率、BCP対応力などです。

第七に、学習価値です。
改善活動が組織知として蓄積されているかを測ります。代表的な指標は、改善提案件数、ナレッジ登録数、ナレッジ再利用率、振り返り実施率、類似ミス再発率などです。

ビジネスプロセス・イノベーションでは、業務の「見える化」だけでは不十分です。見える化された情報をもとに、意思決定や改善が行われ、価値創出につながっているかまで測定する必要があります。


マーケティングやサプライチェーンもビジネスプロセスとして測定する

2018年版の整理では、従来のマーケティング・イノベーションやサプライチェーンに関わるイノベーションも、ビジネスプロセス・イノベーションとして扱うことができます。

マーケティング領域であれば、測るべき価値は「広告を出したか」ではありません。顧客との接点、認知、理解、購買行動がどのように変わったかです。

代表的な指標には、ブランド認知率、指名検索数、資料請求率、リード獲得単価、商談化率、受注率、顧客獲得コスト、LTV、紹介率、値引き率などがあります。

たとえば、新しいマーケティング施策を実施した結果、アクセス数が増えたとしても、それだけでは価値が生まれたとは言えません。ターゲット顧客からの問い合わせが増えたのか。商談化率が高まったのか。受注率が改善したのか。価格競争から脱却できたのか。顧客の理解が深まったのかを測る必要があります。

サプライチェーン領域であれば、測るべき価値は「調達先を変えた」「物流ルートを変えた」という事実ではありません。安定供給、コスト、納期、柔軟性、品質、環境対応、リスク低減がどのように改善したかです。

代表的な指標には、納期遵守率、欠品率、在庫回転率、調達リードタイム、物流コスト率、サプライヤー不良率、代替調達先数、単一サプライヤー依存度、CO2排出量、トレーサビリティ率などがあります。

特に近年は、サプライチェーンの価値をコストだけで測ると、重要なリスクを見落とす可能性があります。地政学リスク、災害、感染症、原材料価格の変動、輸送制約などを考えると、安定供給やレジリエンスも重要な価値です。

つまり、ビジネスプロセス・イノベーションの価値測定では、効率だけでなく、顧客価値、リスク低減、組織能力、社会価値まで含めて評価する必要があります。


価値測定で最も重要なのは「活動指標」と「価値指標」を分けること

イノベーションの価値測定で、多くの企業が陥りやすい問題があります。
それは、活動指標を価値指標と混同してしまうことです。

たとえば、アイデア数、会議回数、PoC件数、プロジェクト数、研修受講者数、ツール導入数、キャンペーン実施数などは、活動指標です。これらは、組織がどれだけ活動したかを示します。

一方、価値指標は、その活動によってどのような変化が生まれたかを示します。顧客満足度が上がった、業務時間が減った、受注率が改善した、解約率が下がった、意思決定が速くなった、供給停止リスクが下がった、ナレッジが再利用された、というような指標です。

活動指標が不要ということではありません。活動指標は、プロセスが動いているかを確認するうえで重要です。しかし、それだけを評価してしまうと、イノベーション活動は活動量を管理するだけの取り組みにとどまってしまいます。

アイデアが100件集まっても、顧客価値や事業価値につながらなければ、イノベーションの成果とは言えません。PoCを20件実施しても、仮説検証の結果が整理されず、事業判断や次の改善に使われなければ、学習価値は限定的です。AIツールを導入しても、業務時間の削減や品質向上につながらなければ、単なる導入実績にとどまります。

ISO 56001の観点では、活動指標と価値指標を明確に分けることが重要です。
そして、活動から価値に至る因果関係を確認する必要があります。


価値測定は「ベースライン」から始める

価値を測定するためには、変化を測る必要があります。
変化を測るためには、現状値、すなわちベースラインが必要です。

たとえば、「業務プロセスを改善した」と言うためには、改善前の処理時間、ミス率、工数、承認日数、顧客対応時間などを把握しておく必要があります。改善前の状態が分からなければ、改善後にどれだけ価値が生まれたのかを判断できません。

新製品や新サービスでも同じです。顧客が従来どのような課題を抱えていたのか、どれくらい時間がかかっていたのか、どのような不満があったのか、既存製品では何が解決できなかったのかを把握しておかなければ、新しい価値を測ることはできません。

多くの企業では、施策の実行後に「効果を測ろう」とします。しかし、本来は施策を始める前に、価値仮説と測定指標を設定しておく必要があります。

プロダクト・イノベーションであれば、「このサービスにより、顧客の月次処理時間を30%削減する」「問い合わせ件数を20%削減する」「新しい顧客層からの売上比率を高める」といった価値仮説を設定します。

ビジネスプロセス・イノベーションであれば、「承認リードタイムを半減する」「手戻り件数を減らす」「部門横断案件の意思決定を速くする」「欠品率を下げる」といった価値仮説を設定します。

そのうえで、現状値を測り、目標値を設定し、実施後に結果を評価します。これにより、イノベーション活動は感覚的な評価ではなく、改善可能なマネジメント対象になります。


先行指標、結果指標、学習指標を組み合わせる

イノベーションの価値測定では、1つの指標だけで判断することはできません。特にイノベーションは不確実性が高いため、短期的な成果だけで評価すると、重要な学習や将来価値を見落とす可能性があります。

そのため、指標は大きく3つに分けて設計することが有効です。

先行指標、結果指標、学習指標です。

先行指標とは、将来の成果につながる前兆を測る指標です。プロダクト・イノベーションであれば、試用率、利用頻度、機能利用率、顧客インタビュー数、商談化率などが該当します。ビジネスプロセス・イノベーションであれば、改善提案件数、業務フロー遵守率、ナレッジ登録数、部門横断会議の実施率などが該当します。

結果指標とは、最終的に生まれた成果を測る指標です。売上、利益、継続率、解約率、コスト削減額、リードタイム短縮率、納期遵守率、顧客満足度などが該当します。

学習指標とは、次の改善に使える知見が得られたかを測る指標です。検証済み仮説数、失敗分類数、顧客インサイト数、改善サイクル数、横展開されたナレッジ数などが該当します。

この3つを組み合わせることで、イノベーション活動を短期の成果だけでなく、中長期の価値創出能力として評価できます。

特にISO 56001の運用では、学習指標が重要です。イノベーションは必ずしも一度で成功するものではありません。不確実な環境の中で仮説を立て、検証し、学び、改善することが求められます。失敗そのものを問題視するのではなく、失敗から何を学び、次にどう活かしたかを測定することが、継続的改善につながります。


種類別に見る価値測定の実務例

プロダクト・イノベーションとビジネスプロセス・イノベーションでは、測定の焦点が異なります。

プロダクト・イノベーションでは、顧客や市場に対して新しい価値を提供できたかを測ります。たとえば、新しいSaaS型サービスを提供する場合、測定すべき指標は、導入企業数、利用頻度、継続率、顧客満足度、業務時間削減率、解約率、LTV、新規顧客売上などです。

一方、ビジネスプロセス・イノベーションでは、組織の業務や仕組みが価値創出に貢献したかを測ります。たとえば、営業プロセスを改革する場合は、リード対応時間、商談化率、受注率、営業サイクル、提案作成時間、失注理由の把握率などを測ります。
開発プロセスを改革する場合は、市場投入までの期間、リリース頻度、不具合率、手戻り件数、顧客フィードバック反映率などを測ります。

カスタマーサポートを改革する場合は、初回解決率、平均回答時間、問い合わせ件数、顧客満足度、ナレッジ自己解決率などを測ります。

調達や物流を改革する場合は、調達リードタイム、納期遵守率、欠品率、在庫回転率、物流コスト率、代替調達先数、供給停止件数などを測ります。

組織運営を改革する場合は、意思決定リードタイム、承認ステップ数、部門横断案件数、権限委譲度、撤退判断件数、ナレッジ再利用率などを測ります。

このように、価値測定は対象によって異なります。重要なのは、あらかじめ「何の価値を測るのか」を明確にすることです。


価値測定を誤ると、イノベーション活動は形骸化する

イノベーション活動がうまくいかない企業では、価値測定が曖昧なまま進んでいることが少なくありません。

たとえば、社内提案制度を導入しても、評価指標が「応募件数」だけであれば、数を集めることが目的化します。PoCを推進しても、評価指標が「実施件数」だけであれば、試すこと自体が目的になります。DXを進めても、評価指標が「ツール導入数」だけであれば、業務変革ではなくシステム導入で終わります。

問題は、イノベーション活動そのものにあるのではありません。
価値の定義と測定方法が不十分なまま進められていることにあります。

イノベーション活動には、必ず目的があります。顧客価値を高めるためなのか、事業成長を実現するためなのか、業務生産性を高めるためなのか、リスクを下げるためなのか、組織学習を促進するためなのか。その目的が曖昧なまま活動を始めると、評価も曖昧になります。

評価が曖昧になると、改善もできません。
何が良かったのか、何が悪かったのか、何を続けるべきか、何をやめるべきか、どこに資源を配分すべきかが判断できなくなるからです。

ISO 56001の重要性は、ここにあります。
ISO 56001は、イノベーションを一過性の活動ではなく、組織として管理し、評価し、改善する仕組みとして捉えます。そのためには、価値測定が不可欠です。


経営が見るべきなのは「成功案件」ではなく「価値創出能力」である

イノベーション活動の評価において、経営が見るべきものは、単に成功案件の数ではありません。
本当に見るべきものは、組織が継続的に価値を生み出す能力です。

プロダクト・イノベーションであれば、顧客課題を発見し、価値仮説を立て、製品・サービスに落とし込み、市場で検証し、改善し続ける能力です。

ビジネスプロセス・イノベーションであれば、業務の問題を見つけ、プロセスを再設計し、組織横断で実行し、成果を測定し、継続的に改善する能力です。

この能力が高まっていれば、たとえ一つのプロジェクトが期待通りの成果を出さなくても、組織としては前進しています。逆に、偶然一つの新製品が売れたとしても、その成功要因が分析されず、再現可能な仕組みになっていなければ、イノベーション能力が高まったとは言えません。

経営に必要なのは、成功事例を称賛することだけではありません。
成功と失敗の両方から学び、価値創出の仕組みを強化することです。

そのためには、価値測定を経営管理の中に組み込む必要があります。新規事業会議、投資判断、プロジェクトレビュー、業務改善会議、人材評価、ナレッジ共有、事業ポートフォリオ管理などに、価値測定の考え方を接続する必要があります。


価値測定は、判定ではなく改善につなげるために行う

価値測定というと、活動を評価し、成功か失敗かを判定するためのものと考えられがちです。しかし、それだけでは不十分です。

価値測定の本来の目的は、改善することです。
つまり、継続するのか、修正するのか、方向転換するのか、撤退するのか、横展開するのかを判断するために測定するのです。

プロダクト・イノベーションであれば、顧客価値が確認できた製品には追加投資を行う。利用率は高いが収益化が弱い場合は価格体系を見直す。顧客課題との適合が弱い場合はターゲットを再設定する。継続率が低い場合はオンボーディングや機能設計を改善する。

ビジネスプロセス・イノベーションであれば、リードタイム短縮の効果が出ているプロセスを他部門に展開する。手戻りが減らない場合は前工程の要件定義を見直す。承認が遅い場合は権限委譲や判断基準を見直す。ナレッジが登録されても再利用されない場合は、検索性や業務プロセスとの接続を改善する。

このように、価値測定は管理のためではなく、改善のためにあります。
ISO 56001のパフォーマンス評価と改善も、この考え方に基づいて運用することが重要です。


経営判断には、価値を説明できる力が求められる

これからの企業に求められるのは、単に新しいことに取り組む力ではありません。
取り組んだ活動が、どのような価値を生んだのかを説明できる力です。

なぜこの新製品に投資するのか。なぜこの業務プロセスを変えるのか。なぜこのPoCを継続するのか。なぜこの事業から撤退するのか。なぜこの仕組みを全社展開するのか。こうした判断には、価値測定が必要です。

プロダクト・イノベーションでは、顧客が価値を感じ、利用し、対価を支払う状態を測る必要があります。
ビジネスプロセス・イノベーションでは、組織の業務や仕組みが、価値創出力を高めているかを測る必要があります。

そして、どちらにも共通するのは、活動量ではなく価値の変化を見ることです。

  • アイデア数ではなく、顧客課題の解決度を見る
  • PoC件数ではなく、検証された仮説と学習量を見る
  • ツール導入数ではなく、業務時間や品質の改善を見る
  • 会議回数ではなく、意思決定の速さと質を見る
  • 新製品数ではなく、顧客に使われ続ける価値を見る

この転換ができたとき、イノベーション活動は単なるイベントやスローガンではなく、経営の仕組みになります。


イノベーションは種類別に価値を測ることで、初めて改善できる

イノベーションの価値測定は、すべてを同じ指標で測ればよいわけではありません。
プロダクト・イノベーションとビジネスプロセス・イノベーションでは、測るべき価値が異なります。

プロダクト・イノベーションでは、製品・サービスが顧客や市場にどのような価値を提供したかを測ります。顧客満足度、利用頻度、継続率、課題解決率、新製品売上比率、価格プレミアム、学習量などが重要になります。

ビジネスプロセス・イノベーションでは、業務や組織の仕組みが価値創出力をどのように高めたかを測ります。リードタイム、コスト、品質、手戻り、意思決定速度、納期遵守率、リスク低減、ナレッジ再利用率などが重要になります。

ISO 56001の観点では、これらの測定は単なるKPI管理ではありません。
組織が継続的に価値を創出するためのマネジメントシステムが機能しているかを確認するためのものです。

イノベーションは、偶然の成功を待つ活動ではありません。
価値を定義し、仮説を立て、測定し、学習し、改善する活動です。

そのためには、「何をしたか」ではなく、「どのような価値が生まれたか」を問う必要があります。
そして、その価値を種類別に正しく測ることが、これからの企業に求められるイノベーション・マネジメントの出発点になります。


ISO 56001の考え方に沿ったイノベーションの仕組み化は、システムコンシェルジュにご相談ください

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INNOVATION WORLD 編集部

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一つの成功モデルが通用する期間が短くなる中、企業には既存事業を安定して運営する力に加えて、環境の変化に応じて事業を更新する力が求められます。本記事では、中小企業の「余白不足」、大企業の「組織の重さ」という課題を整理し、ISO 56001をもとに、変化を捉え、計画し、実行・評価・改善するための仕組みを紹介します。

INNOVATION WORLD 編集部

事業の寿命が縮む時代、企業は何を変えるべきか ――「事業を運営する組織」から「事業を変化させる組織」へ
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10月6日セミナー開催|ここでしか学べない! ISO56001のリアル実践 ノウハウ公開セミナー

10月6日セミナー開催|ISO 56001の実践でつまずきやすい、戦略・方針を目標、活動計画、ポートフォリオへ落とし込む具体的な方法を解説。さらに、大企業から中小規模の組織まで、規模に応じたイノベーションの進め方も紹介。ISO 56001を学ぶだけでなく、実際の活動につなげたい方におすすめの内容です。

INNOVATION WORLD 編集部

10月6日セミナー開催|ここでしか学べない! ISO56001のリアル実践 ノウハウ公開セミナー
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いまこそ求められる「新しいECM」――AI時代、日本企業の競争力を左右する「企業知識の統合」

生成AIの活用が進む一方、企業内に分散した情報や知識の品質が新たな課題となっています。本記事では、ECMを単なる文書管理ではなく「企業知識基盤」として捉え直し、情報・知識を統合してAIが活用できる状態を整え、ナレッジ管理やイノベーション・マネジメントを通じて価値創出につなげる考え方を紹介します。

INNOVATION WORLD 編集部

いまこそ求められる「新しいECM」――AI時代、日本企業の競争力を左右する「企業知識の統合」
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2026年9月11日|「Developers Summit 2026 FUKUOKA」出展のご案内

2026年9月11日|Developers Summit 2026 FUKUOKAに出展します。生成AIにより、プロジェクト情報とナレッジを一気通貫で整理・活用できる「ONES製品」をご紹介します。開発現場に散在する仕様書、議事録、ノウハウ、タスク情報を横断的に検索・活用することで、情報分散や属人化を解消。開発生産性の向上と継続的な知見共有を実現するための活用方法を展示ブースでご紹介します。

INNOVATION WORLD 編集部

2026年9月11日|「Developers Summit 2026 FUKUOKA」出展のご案内