はじめに:一人の力に依存する経営のリスク
日本には、卓越したリーダーシップで企業を牽引してきた“カリスマ経営者”が数多く存在します。ソニーの盛田昭夫氏、本田技研の本田宗一郎氏、ユニクロの柳井正氏、ソフトバンクの孫正義氏など、強いビジョンと実行力で企業を成功に導いた例は枚挙にいとまがありません。
しかし、「個人」に依存する経営スタイルは、持続可能性の観点から見ると大きなリスクを孕んでいます。創業者が退いた途端に企業が失速し、混乱に陥るケースも少なくありません。直感や経験に基づく意思決定が企業の方向性を決定づける構造はスピード感を生みますが、その一方で「属人化」というリスクを孕んでいます。
この属人化により、暗黙知の共有が進まず、意思決定プロセスがブラックボックス化します。その結果、組織としての学習が進まず、再現性のある成長モデルが構築されないまま世代交代を迎えることになります。
深刻化する日本の事業承継問題
中小企業庁『2021年版 中小企業白書』によると、経営者の年齢が60歳を超える中小企業は全体の60%以上にのぼります。そのうち、半数以上が後継者未定のまま事業を継続しています。また、年間約5万件の企業が廃業しており、その多くが黒字でありながら、後継者不在を理由に事業を継承できずに廃業しいています。ときには日本の優れた技術や事業が海外企業に売却するということも現実に起こっています。
こうした廃業は、技術や人材、取引関係といった経営資源の喪失を意味し、社会的・経済的な損失としても看過できません。背景には単なる人材不足だけでなく、事業の属人化、意思決定の不透明性さ、ノウハウの形式知化の不足など、構造的な課題が横たわっています。
これらの根拠となる中小企業庁の調査結果『中小企業白書』についても参照してみてください。
1. 経営者の60歳超の割合が60%以上
中小企業庁の「中小企業白書」によれば、日本の中小企業の経営者の平均年齢は上昇傾向にあり、60歳を超える経営者の割合が増加しています。
2. 後継者未定の企業が半数以上
同白書では、後継者が未定の中小企業の割合についても報告されており、特に経営者の高齢化が進む中で、後継者問題が深刻化していることが指摘されています。
後継者不在の背景には、単なる人材不足だけでなく、事業の属人化、意思決定の不透明性、ノウハウの文書化や継承の欠如といった構造的な課題があります。たとえ後継者が存在しても、前任者の経験や勘に頼った経営スタイルが共有されていなければ、同様の判断を下すことは困難です。
3. 年間の廃業件数が約5万件以上
中小企業庁の報告によれば、近年、年間に廃業する企業数は約5万件を超えており、その多くが黒字であるにもかかわらず、後継者不在などの理由で廃業に至っているとされています。
出典:中小企業庁『2021年版 中小企業白書』
このような背景を踏まえると、企業が持続的に価値を創造し、組織としての学習力を高めるためには、「個の知」から「組織の知」への転換が不可欠です。ここで注目されているのが、経済産業省が10年前から提唱する「イノベーション・マネジメントシステム(IMS)」です。
約7割の企業がイノベーションの必要性を認識
中小企業庁が2023年に公表した調査によれば、イノベーションの必要性を感じている中小企業は73%に上ります。これは2014年の調査と比較して約20ポイント増加しており、企業の危機感の高まりを示しています。
一方で、実際にイノベーションに取り組んでいる企業は全体の44%にとどまり、必要性を感じながらも実践に至っていない企業が多い現状が浮かび上がっています。
特に注目すべき点は、「新たな市場ニーズの探索」を行っている企業ほど、イノベーションの事業化や利益増加につながる傾向が強いという点です。これは、イノベーションの成果には、意識だけでなく具体的な実行が伴って初めて意味を持つことを示唆しています。
出典:中小企業庁「中小企業のイノベーションの在り方に関する有識者検討会中間取りまとめ報告書」
出典:中小企業庁「2023年版中小企業白書」
イノベーションへの取り組みで変わる事業化状況
イノベーション・マネジメントシステム(IMS)の「組織の状況」に記載される要求事項を実施することで、組織機能として新たな市場ニーズの探索ができるようになります。下図は、新たな市場ニーズの探索状況別に、イノベーションの事業化状況を見たものです。これを見ると、新たな市場ニーズの探索に取り組んでいる企業は、取り組んでいない企業と比べて、イノベーションの事業化や、それによる利益増加につながっている傾向があります。
このことから、イノベーションを事業化し、収益を生み出すためには、新たな市場ニーズを積極的に探索することが重要だとわかります。
イノベーション・マネジメントシステム(IMS)とは
IMSとは、組織が持続的に価値を創造するためのプロセスや文化、構造、戦略を体系的に整備するための枠組みです。ISOは2019年に「ISO 56002(ガイドライン)」を発行し、2024年にはその要求事項を定めた「ISO 56001(認証規格)」を正式発表しました。
この枠組みは、従来のISO 9001(品質)やISO 27001(情報セキュリティ)と同様に、再現性のあるプロセス構築と継続的な改善を重視しており、特定の人材に依存せず、組織全体で知見を共有することを目指しています。
この国際標準規格では、以下のような要素を構成要素として求めています。
IMSが事業承継にもたらす効果
IMSの導入により、以下のような効果が期待できます。
1. ノウハウの形式知化と継承
事業運営における知識や判断基準など属人的な業務がプロセスとして整備され、後継者は「経験を積まないと分からない」から、「プロセスを理解すれば再現できる」経営へとアクセスできるようになります。
2. 組織文化の明文化と伝承
IMSはイノベーション文化の醸成も重要視しており、経営理念や価値観を組織全体に浸透させる手法も体系化されます。これにより、先代が築いた暗黙の文化を、次世代に明確に伝えることができます。
3. 持続可能な経営戦略の確立
環境変化に応じて、機会とリスクを継続的に評価・活用するプロセスを通じて、長期的な視点に基づく戦略を構築できます。これにより、後継者が時代に合った舵取りを行いやすくなります。
4. ステークホルダーとの信頼構築
透明性の高い経営体制の構築により、顧客、取引先、従業員などのステークホルダーの信頼を獲得できます。後継者が就任した際にも、その信頼を引き継ぐベースとなることでしょう。
IMS導入のステップと現実的アプローチ
IMS導入には、人材・資金・文化的な障壁があるのも事実ですが、段階的な取り組みによって効果を実感することは可能です。
まずは「強みと課題の可視化」「知識の共有」「意思決定プロセスの明文化」など着手しやすい領域から始め、徐々に全社的な仕組みへ展開しましょう。
また、ISO56001では、「ツールと方法論」という要求事項が記載されています。
イノベーション・マネジメントシステム(IMS)を効果的に運用するためには、以下のツールの導入検討が推奨されます。
- イノベーション管理ツール
- プロジェクト管理ツール
- ナレッジ管理ツール
- 文書情報管理ツール
- コミニュケーションツール
現在の組織状況に応じて、最初に着手すべきスタート地点は異なります。最初の一歩をどこから始めるかお悩みの際は、ぜひ株式会社システムコンシェルジュにご相談ください。
おわりに:イノベーションを「継ぐ」ことの重要性
カリスマ的な経営者など「個」の経験や能力に依存せず、組織としてイノベーションを継続的に生み出すことは、単なる事業の存続手段に留まらず、未来に向けた価値創造のための経営の本質です。
また、日本企業が直面する事業承継の課題は、価値の継承と進化の課題でもあります。イノベーション・マネジメントシステム(IMS)は、その課題への有効な解決策であり、企業にとって未来をつなぐ「知のインフラ」となるでしょう。
株式会社システムコンシェルジュでは、中小企業の負担を軽減するために、月額20万円から始められるIMS支援サービスを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。
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